執着王と初めての夜


「まだ一度も皇太子のお手がついていない!?」
 部下の宦官たちからその報告を受けた太監は、豪奢な椅子の上で老猿のような細い体を揺らし、素っ頓狂な声を響かせた。
 よほど驚いたのだろう。普段は滅多な事では動じない太監が、目の前の床に片膝をつき拱手の体勢で控える玲深を、まじまじと見つめる。
「藍玲深。そなた、皇太子に仕え始めて何年になる?」
「はい。今年で三年になります」
「それなのに今まで、ただの一度も?」
「は、はい……」
 太監の呆れたような声に恐縮し、玲深はさらに縮こまった。
「まさかそのようなことになっていたとは、思いもよりませんでした。今までも毎晩、閨には侍っていたのですよね?」
「はい」
「それなのに、これまで一度も皇太子の逸物を身に受けたことがないと?」
「……申し訳ございません」
 言い訳もできず、玲深はうなだれた。
 先ほど、烈雅付きの宦官たちに連れられ、太監の部屋を訪ねたときから、叱責されるであろうことはわかっていた。
 三年前に夜伽役として仕え始めて以来、玲深は毎晩、烈雅と寝所をともにしている。
 しかし、烈雅は玲深を抱き枕代わりにして寝るだけで、玲深に決して手を出してこない。
 今までは、烈雅が寝所から宦官たちを遠ざけてくれていたおかげで、そのことが露見せずに済んでいたが、どうやら業を煮やした宦官たちが、夕べこっそり玲深たちの様子を覗いていたらしい。
「一体なぜです。皇太子は極めてご健康体であられるはず。それなのに、今まで一度も手がつかないとは、そなたに原因があるとしか考えられません」
 早口でまくしたてる太監の言葉に、部屋の中にいるほかの宦官たちも頷く。
「皇太子は、この者では駄目なのでしょう。このように貧相な体では、勃つものも勃たないのかと」
「この際、他の者を夜伽役に推挙なさってはいかがですか?」
 宦官たちの冷ややかな視線が四方から一斉に玲深に突き刺さる。
 彼らにとって夜伽役は玲深でなくとも、誰でも構わないのだ。
 実際、烈雅の閨にあがるための訓練として、彼らから連日のように閨の手ほどきを受けているが、そのときも玲深は劣等生で、宦官たちに体を自由に弄ばれる屈辱に泣いてばかりいた。
(どうしよう……このままじゃ、夜伽役の任を解かれてしまうかもしれない。烈雅様のそばに居られなくなる。それはいやだ)
 玲深の背にたらたらと冷や汗が伝う。
 夜伽役といっても、今までは自分が子どもだったから、烈雅がその気にならないのだと思っていた。
 しかし、先月十六歳の誕生日を迎え、玲深が成人した今になっても、烈雅は玲深を抱こうとする素振りを見せない。
 これはさすがにおかしいと玲深も思い始めた矢先に、太監から呼び出されてしまったのだ。
「そうですね。夜伽役のつとめを果たさぬ者を、いつまでも皇太子の側仕えにしておくわけにはいきませんし」
 太監が大きくため息をつき、椅子から立ちあがる。
「た、太監様!」
 隣の執務室へ向かおうとする彼を、玲深は思わず呼び止めた。
「どうかそのご決断はお待ちください。今宵こそ、必ずおつとめを果たして参ります。ですので私に今一度、機会を与えていただけませんか?」
 申し出る声が緊張で震える。
 正直、どうやったら烈雅に抱いてもらえるのかわからない。
 けれど、捨て身で誘うほかないのだ。
「その言葉に嘘はありませんね?」
 太監の目が鋭く細められる。
 玲深はごくりと生唾を飲み込み、太監の質問に頷いた。
「よいでしょう。藍玲深、そなたに最後の機会を与えます。今宵こそ、皇太子のお情けを頂けるよう、誠心誠意励みなさい。もし失敗したら、そのときはそなたの夜伽役の任を解きます」
 太監はそう言うと、玲深に興味が失せたのか、
「お前たち、この者の準備を手伝ってやりなさい」
 と、おざなりに近くの部下に命じ、執務室へと去っていった。
「承知仕りました」
 太監の命令を聞いた宦官たちが頭を垂れ、口元に好色な笑みを浮かべる。
 玲深はすぐさま両脇を宦官たちに掴まれ、湯殿へと連れて行かれた。

   *

「どうしたのだ、玲深。今日はずいぶん早いな」
 甘い香を焚いた寝所に、夜着姿の烈雅が現れたのは、夕餉を終えてから一刻半が過ぎたときだった。
 小鈴を膝に乗せて烈雅がやってくるのを待っていた玲深は、慌てて小鈴を床に下ろし、烈雅に向かって居住まいを正した。
「烈雅様、折り入ってお願いがございます」
「なんだ?」
「私は先月、成人を迎えました。そのことはご存じですよね?」
「ああ。今になって、なにか欲しい祝いの品を思いついたのか?」
 烈雅は機嫌がいいのか、玲深の隣にどかりと腰かけると、玲深の肩を抱いてきた。
 いつもなら何とも思わない軽い触れ合いも、これから烈雅と抱き合うのかもしれないと思うと、緊張して胸が高鳴る。
「どうした? 遠慮せず言ってみろ。高価な着物でも菓子でも、なんでも贈ってやるぞ」
 湯を浴びてきたばかりなのか、濡れたままの紅い髪を後ろに撫でつけ、額を出している烈雅はいつもより男らしい。
 夜着の袷から覗く逞しい胸も、綺麗に割れた腹の筋肉も、自分にはまるでないものだ。
 これが男の色気というものだろうか。
 玲深はごくりと唾を飲み、用意していた言葉を思いきって口にした。
「烈雅様が欲しゅうございます」
「え?」
「私は、烈雅様のお情けが欲しゅうございます。だ、だめでございますか?」
 固く目を閉じ、揃えた膝の上で両手を握りしめる。恥ずかしくて、とても烈雅の顔を直視できない。
 先日は成人祝いを贈ってくれるという烈雅のせっかくの厚意を断ったくせに、この期に及んで、よりにもよって烈雅自身を欲しがるなんて。
 そんなはしたない願いを口にした自分を、烈雅はどう感じただろう。
「意味をわかって言っているのか? 玲深」
 しばらく沈黙が落ちたあと、烈雅は固い声で確認してきた。
「わ、わかっております。私ももう子どもではございません。今宵は、夜伽役としてきちんと烈雅様にお仕えしたく、覚悟を決めてまいりました」
「誰かに言われたのか?」
「いえ……私の一存でまいりました。今宵こそ、烈雅様に抱いていただきたいと」
 玲深は目を開け、恐る恐る烈雅の顔色を窺った。
 烈雅にはあえて事情を話さないことにした。今宵役目を果たせなければ、夜伽役を下ろすと太監から脅されていることを口にすれば、烈雅は同情して自分を抱いてくれるかもしれない。
 けれど、それでは意味がない。
 夜伽はたしかに自分の仕事だけれど、初めての夜は必ず合意で、烈雅と睦み合いたいと玲深は夢見てきた。
 烈雅が好きだから、いつか烈雅に抱かれるためならばと思い、宦官たちから施される屈辱的な訓練にも、耐えることができたのだ。
 しかし、そんな玲深の決死の覚悟も、烈雅にはうまく伝わらなかったようだ。
「無理はしなくてよい。震えているではないか」
「無理などしておりません。少し、緊張しているだけでございます」
「だが、そのように緊張されていては、気が進まぬ。やはり今宵はいつものように何もせず寝よう」
 烈雅は苦笑混じりに玲深の頭を優しく撫でると、褥の中に玲深を引きずり込んだ。そしていつものように正面から玲深を腕の中に抱きこんで、目を閉じる。
 やはり自分から誘ってもだめだった。
 そのまま安らかな寝息を立てて、眠りに就きそうな烈雅の顔を間近で眺めながら、玲深は悲しくなって、ぐすりと洟を啜った。
「なぜ泣く?」
 すると、寝入りかけていた烈雅がぎょっとした様子で、大きく目を見開いた。
「申し訳ございません」
「俺がなにか気に障ることを言ったか?」
「いいえ。ただ、自分が情けなくて……。私に魅力がないばかりに、夜伽役としてのつとめも果たせず、烈雅様には大変申し訳なく……」
「それは違う。違うぞ、玲深」
 烈雅が焦った口調で、玲深の肩を揺らしてくる。
「ならば、どうして抱いてくださらないのですか? 私がお嫌いだからですか?」
「そんなわけないだろう!」
 思いがけず大きな声で怒鳴られ、玲深は涙で濡れた目できょとんと烈雅の顔を仰ぎ見た。
「俺はお前が好きだ。今すぐだって抱きたいと思ってる。だが、お、俺はきっと下手だ! 絵巻物で方法は学んだが、実際にするのは初めてだから、お前に痛い思いをさせるだろうし、お前に嫌われたくなくて、その……」
 言葉尻がだんだん小さくなるにつれ、烈雅の顔がかぁぁと赤くなる。
 いつも年齢以上に大人びている烈雅が、ここまで動揺している姿を、玲深は初めて見た気がした。
(烈雅様は私をお嫌いではない。むしろ好きだとおっしゃってくださった。どうしよう。うれしい。こんなことって……)
 烈雅が懸命に伝えてくれた言葉がじわじわと心に染み渡り、玲深の目尻すら涙が頬に伝う。
 烈雅が自分をなかなか抱こうとしなかったのは、初めてのまぐわいに不安を感じていただけだったのか。
「それは私も同じです。夜伽役としてお仕えしておりながら、私も抱き合うのは初めてですし、うまくできるかどうか」
 本当なら夜伽役は皇子に閨の作法を教えるため、経験豊富な少年が選ばれるはずだ。
 しかし、烈雅は何の経験もない自分でもいいと、自分がいいと言ってくれた。
 だから、どんなことをされても構わない。烈雅にすべて身を任せよう。
「痛くても、下手でも構いません。私は烈雅様に抱いていただきたいのです」
「玲深……」
 感極まったように名を呼ばれ、顔をあげた瞬間、玲深は烈雅に唇を奪われていた。乱暴に口腔を掻き荒らすような、欲望に満ちた口付けだ。接吻を受けたまま、体を反転させられ、玲深は褥の上に仰向けに縫い付けられた。
「ならば抱くが、どうなっても知らぬからな」
「烈雅様……」
「そう固くなるな。俺も緊張する。いつも通り振る舞っていてくれ」
 烈雅が困ったように笑いながら、玲深の夜着に手をかける。
 脱がせやすいよう、薄絹一枚で織られた夜着は音もなく褥の上に落ち、玲深はあっという間に裸にされてしまった。
「夜伽の作法は、宦官たちから一通り習ってきたのだろう?」
「はい……」
 玲深は浅く頷いた。たしかに宦官たちからは、絵巻物を見せられたり、実際に狎具を使い、烈雅を受け入れる際の練習をさせられたり、その手の知識はさんざん叩き込まれてきた。
 だが、いざ本番を迎えた今、それらをうまく実践できる自信はない。
「こうして改めて見ると、本当にきめ細かく、白い肌だな。ここまで美しい肌を持つ者は、後宮に仕える女官たちの中でも滅多にいないぞ」
「あ、ありがとうございます」
 男として肌を褒められてもあまりうれしくないが、烈雅に気に入ってもらえたのなら幸いだ。
「その中でも、ここだけは淡く色づいて、ひときわ可憐だな」
 烈雅が舌を伸ばして、玲深の胸の飾りに吸い付いてくる。
「烈雅さま、そのようなところ……」
 いきなりそこを舐められるとは思っていなかったため、玲深は恐縮して、つい烈雅の頭を押し返してしまった。
 女のように丸みもない、平らな胸を吸っても、楽しくも何ともないだろう。
 しかし、烈雅はとても満足そうに笑い、さらに反対側の乳首へと狙いを変える。
「そう恥ずかしがるな。ここをずっと舐めてみたいと思っていたのだ。今日は俺の好きにさせろ」
「は、はい……」
 困惑しつつも、素直に烈雅に従い、玲深は大人しく枕に頭を預けた。
 胸を弄られているだけなのに、なぜだかむずむずと下半身が熱くなる。烈雅に触れられているせいだろうか。いつになく体が興奮しているのがわかる。
「勃ってきたな」
「す、すみません」
「構わぬ。先に一度出しておけ。今宵は長いぞ」
「あっ……、れ、つがさま……」
 いつの間にかそそり立った前を烈雅の右手に包まれ、そこを上下に扱かれる。
「やっ……だめ、そんな……」
「なにがだめなのだ?」
「……っ、私ばかり……、気持ちよくなっては、夜伽役の……んっ、意味がっ…、ございません」
「そのようなこと気にするな。俺は、お前が気持ちよくなっている顔が見たいのだ」
 烈雅が右手を動かすたび、くちゅくちゅと響く水音は自分の先走りだろうか。
 恥ずかしい。もう死んでしまいたい。
「やっ、あぁ……っ、手、手を……お放しくださ……汚れて、しま……あっ、ぁ」
「構わぬ。このまま達ってみせよ」
 濡れた手で震える砲身を一際強く扱かれた瞬間、玲深はひっと息を詰めた。
 背筋にぞくぞくと快感が走り抜ける。
「ひぁ、やっ……出るっ、出てしま……あっ、あぅ……――ッ!」
 がくんと上体が仰け反り、爪先が痙攣する。烈雅に追い立てられるまま、あっけなく絶頂を迎えた玲深は、烈雅の手の中に勢いよく精を放った。
「早いぞ、玲深。溜まっていたのか?」
 烈雅が喉を鳴らしてかすかに笑う。
 それを玲深は白く霞む意識の中でぼんやりと聞いた。
「は……ぁ、申し訳ございません……、私ばかり」
 玲深は仰向けになったまま両肘を使い、達したばかりでだるい体を起こした。
 自分ばかり気持ちよくなっている場合ではない。次は自分が奉仕しなくては。
 烈雅の逸物も夜着の下で固く張り詰め、布地を窮屈そうに押し上げている。
「こちらを触ってもよろしいでしょうか?」
 玲深が思いきって申し出るも、烈雅は恥ずかしそうに笑って、玲深の体を再び褥に押し倒してきた。
「それは魅力的な誘いだが、また次の機会にな」
「え?」
「今日はどうも我慢できそうにない。早くお前の中に入りたいのだ」
 そう言いながら、烈雅は己の夜着の前を寛げる。紅い叢の間から、雄々しく天を向いてそびえる烈雅の逸物は、玲深の想像よりも大きく、逞しく育っていた。
「今準備をする。両脚をもって、待っていろ」
 烈雅は枕元に置かれた香油の壺に手を伸ばすと、中身を手のひらにとり、己の肉刀に滴るほど纏わせた。
 そして両脚のひざ裏を持ち、不安な気持ちで待ちわびる玲深の後孔の縁にも丹念に香油を塗りつけてくる。
 そして、やや緊張した面持ちで玲深の尻をまさぐると、烈雅はごくりと喉を鳴らし、声をかけてきた。
「指を挿れるぞ。力を抜いていろ」
「はい……」
 殊勝に返事をしたものの、玲深はそこに指を挿れられるのが初めてではない。
 いつでも烈雅を受け入れられるよう、宦官たちの手や狎具で、今日も中を丹念に解されてきた。
 しかし、そうとは知らない烈雅は、玲深のそこが難なく烈雅の指を呑み込んだことに驚いたようだった。
「中が濡れてる……どうしてだ?」
「先だって、閨にあがる準備として、香油を塗って頂きました」
「宦官どもに、ここを触らせたのか? 俺より先に?」
 烈雅の表情がひきつる。
「だめ、でございましたか?」
 玲深としては、それが夜伽役として当たり前のつとめだと思っていたが、この前準備は思いのほか烈雅の不興を買ったらしい。
「当たり前だ。ここに触っていいのは俺だけだ。今後一切、そのような前準備は不要だと伝えろ」
「はい……」
 烈雅からぶつけられる、独占欲の塊のような命令が心地よい。
 苛立ちにまかせた少し乱暴な口付けを受けながら、玲深は後孔を弄られる快感に恍惚と酔った。
「ん……っ、烈雅様」
 烈雅の指が一本から二本に増やされ、ぐちぐちと中を掻き回される。
 いつもなら屈辱しか感じないその行為も、烈雅の指だと思うとうれしくて、奥へ奥へと貪欲に飲み込もうと中の媚肉が蠕動する。
 しかし、その淫らな動きは烈雅にさらなる疑念を抱かせたようだった。
「まさかとは思うが、ここに男を受け入れたことはないだろうな?」
「あ、ありません。烈雅様が初めてでございます」
 玲深は頬を染め、慌てて否定した。
「ならよい。宦官たちの中には、時折自然と逸物が再生して生えてくる者がいると聞くから、心配したのだ」
「そ、そうなのでございますか?」
「ああ。だが要らぬ心配だったようだな」
 疑って悪かった、と呟き、烈雅は玲深の頬に軽く口付けを落としてくる。
「だいぶ解れているようだから、このまま挿れてもよいか?」
「はい」
「いくぞ、玲深」
「は、い……」
 正面から抱き合う形で、烈雅の切っ先が玲深の蕾に押し当てられ、ぬかるむ肉壺に徐々に埋め込まれていく。
「あ……っ」
 今まで男根を模した狎具なら、何度も身に受けたことがある。しかし、烈雅の息吹は狎具と段違いに熱く、太く猛々しく、玲深の肛道を犯していく。
「う……ぁ、れつが、さま……」
 まだ半分も入っていないはずだ。
 けれど、あまりの苦しさに玲深は思わず悲鳴をあげそうになってしまった。 
「力を抜け、玲深。このままでは、食いちぎられてしまいそうだ」
「すみませ……っ、うっ……」
 烈雅の額にも汗が浮いている。
 自分が締めつけているせいで、烈雅も苦しいのだと思うと、申し訳なくて、玲深は懸命に息を吐いた。
「どうぞ、奥まできてください。私のことは、お気になさらず」
「……っ、そのようなことを申すな。俺は、お前を傷つけるつもりはない」
 切なく顔を歪ませたまま、烈雅が玲深の前を右手で掴んでくる。
 挿入の痛みで萎えたそこをゆるゆると扱かれると、快感を覚えた玲深の体がわずかに弛緩した。
「少しゆるんできたな」
 烈雅がほっとした様子で息を吐き、玲深の腕を背中に回させる。
「ここにしっかり掴まっていろ。少し動くぞ」
「あ……」
 その言葉の通り、烈雅の肉身がぐっと奥まで挿しこまれる。狎具ではとても届かない極みを穿たれ、玲深は烈雅の背にしがみつき、びくびくと体を震わせた。
「ふっ……、う……」
「痛いばかりか?」
 今度は烈雅がゆっくりと自身を引き抜いていく。入口にほど近い内壁を小刻みに擦られると、突如として玲深の全身にさざ波のように快感が押し寄せてきた。
「あっ、そこ……」
「ここか?」
「いやっ……、厭で、ございます……そこ……、なぜっ……」
 惑乱し、髪を振り乱す玲深の顔を見て、烈雅が嬉しそうに目を輝かせる。
「男は後ろでも感じるツボがあると聞く。ここがそうなのだな?」
「やっ、いや……」
「いやではないだろう? 気持ちいいときは善いと言え」
「あっ……善い、気持ち……ぃ、あっあ……」
 烈雅にそこを突かれるたび、目の前が白く点滅し、烈雅の右手に包まれた前から、だらだらとひっきりなしに涎が零れてくる。
 夜伽役としてのつとめも忘れ、未知の快感に溺れる淫らな姿を見せたら、烈雅に嫌われてしまうかもしれない。
 けれど、初めて感じる圧倒的な肉の悦びに、玲深はただただ狂乱することしかできなかった。
「俺も気持ちいいぞ、玲深。お前と抱き合うことができてよかった」
「……っぁ、れ、つがさま……、私も……あっ……あぁ……」
「お前の中に全部出す。良いな?」
「は、い……ください……私のなかに、出して……あっ、あぁ――」
 烈雅に一際深くを突かれ、意識がふわりと飛ぶ。
 玲深が絶頂に達すると同時に、どくどくと中に烈雅の熱い奔流が叩きつけられた。
「愛しているぞ、玲深。俺は、生涯お前だけを抱き続ける」
 烈雅が荒い呼吸のまま、上から覆いかぶさってくる。
(私もです……烈雅様……)
 恐れ多くて、決して言葉には出せないけれど、汗ばんだ烈雅の背中を抱きしめて、ようやく名実ともに烈雅の夜伽役になれた幸せに、玲深は心から涙したのだった。




シャレード文庫「執着王と禁じれた愛妾」より。
2014/3/9 J.GARDEN36無料配布ペーパーより再録。